ドルフロ2の二次創作のまとめ 三枚目 前提と独自の設定 これは二次創作。本編とは混同しないこと。 この世界は治安が悪い。 そのため、敵対する個人・組織が簡単に出現する。 SAC2045コラボの話が過去に起こっている。 グリフィンの指揮官は複数人居て、人形も分散して割り当てられていた。 ヴェプリーは闇ブローカーに売られるまでの過程で介護、清掃、店員などの様々な職種を経験している。その為人脈が多い。 この話は本編とは関係無い曖昧な時系列で進行している。 設定の齟齬は起きるものとする。 この話は本編でプロトコルの詳細な設定が開示される前に書かれた物であり、この話のプロトコルの設定は流動的に変更されるものとする。 なんらかのパロディが含まれている場合がある。 登場人物 エルモ号の連中 エルモ号の男指揮官……エルモ号で最も指揮が得意。よく拉致される。 エルモ号の女指揮官……エルモ号で二番目に指揮が得意。よく拉致される。美容に気を使い、我が強い。 ヴェプリー……戦術人形。強い。暇な時にネットで新曲を配信している。出来る範囲でアイドルらしくありたいと思っている。指揮官が結構好き。理想と現実の差に苦しむ。 元グリフィンの連中 ツインテの指揮官……車の趣味が他の指揮官達と合わない。そこそこの生活をパートナーと送れればいいタイプだが、現実は常に厳しい。 ツインテ……M14を持っている戦術人形。場数を踏んでいる為、下手な人形より強い。真面目。 クロの指揮官……メンヘラ男。指揮より直接戦闘が得意だが、あまり意味がない。プロトコル問題の件の解決待ち。 クロ……戦術人形。場数を踏んでいる為、下手な人形より強い。配信が趣味。誓約している指揮官には優しいタイプ。 元グリフィンの女指揮官……元グリフィンの指揮官達と組んでいたが、レーティングの問題でヴェプリーの一連の話に出ることはない。 新興PMCのCEOの女……元グリフィン上級職員。既婚者。かなり変な性格。グリフィンをクビになって以来、賞金ハンターとして活動していた。エルモ号の連中と微妙に協力している。 01 この世界ってわりと酷いかもしれない。ヴェプリーはそう思う。 外に出ればELIDになる、ヴァリャーグはいる、壁の内や外に住めるかとか、そういうのでいっぱい。 壁の中でも、結局ベクトルが違うだけ。そんな中生きているだけでもすごい。人類は超頑張ってる。 「だから応援歌を作りたいな☆」とキッチンで言った。 ここには居候であるツインテと配信者と、彼女らの指揮官とで四人。ヴェプリーを含めると五人。 ツインテ達は二人で3Dプリントされたサーモンを食べている。 「人間は工業製品じゃないし、ある意味出来なくて当然って感じだけどさ」ツインテの指揮官。 一呼吸。 「人形は出来て当然って目で見られてるだろうし、ある意味人形の方が頑張ってるんじゃね?」 「あたしも頑張ってますけど、彼も頑張ってますよ!」サーモンを分けてもらった。美味しい~。 配信者達はビールを何本か開けてた。 「チクショウ!あの女が俺達のプロトコルだかを緩和してくれるからって今まで戦って来たのに、何の音沙汰も無い!」 「大丈夫?」ヴェプリーは彼女に聞いてみる。 「全然ダメ!」だよね。 きっとじゃなく、皆辛い…… で、結局出したヴェプリーの人類応援歌なんですが、全然売れません。なんで?聞かれたって知らないよ。 練りに練って書き上げた歌詞にしっかり組んだビートを乗せて、これなら何とでもなるでしょう?なりません。 アップロードから三分後、ヴェプリーは緊張を紛らわすために、アイスを食ったら虫歯になって歯が痛いとか…… もっとまじめに歯を磨いておけばよかったな……そんな感じの情報量の少ない、ローコンテクストな歌詞の曲を出した。 そっちの方が売れてます。新進気鋭のパンクアーティストがチャートを駆け上がる中、そこに匹敵するくらい。 嬉しいけどそうじゃない、そうじゃないの。でも嬉しいよ。皆ヴェプリーの曲を買ってくれてありがとう☆ ……なんで?どうして?思い入れが品質に直結しないのはわかってる。でも全然わからない。 クソ、泣けるわ。 頭の中がもうグニャグニャになって、涙が出てきた。 さあヴェプリー!キッチンに急げ!こんな時の解決策はこの辺りの人なら誰だってやる事だ! 頼みの綱の飲用エチルはメイリンが抱え持っていた。 LEDの光が、エチルのしずくを照らしていた。 02 イエローエリアの街に着くたびに私はバーに入っている。 家じゃない場所で一人で酔っぱらいたい気分は誰しも抱えていると私は信じたい。だからここに来る。 冷蔵庫にはロクサット連盟が作った消毒・食品・燃料まで流用出来るウォッカが備蓄してある。 人が酔っぱらう権利を維持する為だけに作られたウォッカ。ウォッカなのか、あれは?飲む度呆れるばかりだ。 ロクサット連盟勝利記念ウォッカ。雄々しいラベル。悲惨な味。 あれを飲み続けていては精神の均衡を崩しかねない。まともな酒ではないからだ。 久々に味わったスツールの感触。材質は合皮だったが、そんな事はどうでもいい。 横に女が座る。「いいかしら?」「構わないよ」虹彩に刻まれたシリアルナンバーは戦闘用光学系。戦術人形。 バーテンダーが注文したカクテルを渡してくれた。 それを飲む。 私はこの味の為に生きている。そう断言したっていい! それからグラスを置いた。手の感触を辿る。白い手。微笑む顔…… 「働き者の手ね」彼女は……美人だ。 そしていい雰囲気になった。 なったんだけどなあ。 目を開けると、ホテルの一室であることがわかった。腕の感触は……ケーブルタイ。私はまたやらかしたらしい。 だから酒なんてやめてと言ったんですよ!と10年前のカリーナの声を思い浮かべた。戻ってこないあの頃を。 ガスマスクの男。都市のヴァリャーグか。 「お前、危機感が無いんじゃないか?普通、美人が横に立ったら騙されてるんじゃないかって思うだろ」 はい。もっともです。金やら何やらこういうものを出せと言われ、私は思わず嘔吐した。殴られた。痛い。 「チッ!掃除しとけ」「え?私?」唸りながらその男はハンカチで自分の服を拭いていた。 なんてことはない。私はその頃にはケーブルタイを外していた。男を殴り、そのまま肉の盾にした。 この戦術人形はまるでなってない。グリフィンの人形だったら男を避けてそのまま私を撃ち殺していただろう。 ヴァリャーグの拳銃を奪い、彼女を撃った。 ドアの外から何度か銃声がして、蹴破られる。 エルモ号のもう一人の指揮官である彼女が辛辣な表情で歩み出た。 「何してたのか説明できる?」 酒を飲み過ぎて学べることは一つだけだ。 お酒はほどほどにしましょう。 03 エルモ号の指令室。 「この近くに高名な結婚詐欺師が入ってきたって情報が来てな、ヘリアンさんがひっかかる前に始末して欲しいんだと」 ツインテが木製銃床を磨く中、その相方の指揮官がそう呟いた。 この人達はかわいそうなことに、うちの指揮官のプロトコルに似た何かのせいでややこしい事態になってるらしい。 詳細は知らない。指揮官のプロトコルでさえはっきりした事がわからないのに、何がわかるって言うの? ヴェプリーわかんないからね。 わかるのは、彼と繋がりのある、ある会社の女が仕事を回してきたって事だけ。そしてやった方がオトクってこと…… パジャマ姿のうちの指揮官がやってきた。「あれ……彼女、いないのか?」 エルモ号には指揮官が二人いて、片方は女性…… 「どうしたんですか?」ツインテ。「いや、彼女、昨日から街に酒飲みに行くって言ってから帰ってきてないんだよ」 「続けていいか?」よその指揮官はメモ用紙を取り出し、咳払いをした。 「その詐欺師、最近は詐欺どころか、もっとひどいことをやるようになったって話らしくって……」 ヴェプリー達は顔を見合わせた。 ああ、ヤバい…… 市街地。 掴んだ情報を元にあるホテルに人を送ったが、グローザがしくじったらしい。 「戦術人形6体が襲い掛かって来たわ、凌ぎ切ってる間にターゲットが逃げたから何とかしなさい」と、グローザ。 ヴェプリー達の役割はこういう時の安全装置だ。 「始めましょっか」「了解☆」仕切られてる気がするが、まあいい。 ツインテ達は後方で狙撃手。元グリフィンの人は皆結構強い。休日にいろいろ教えてもらってるけど、その価値はある。 ヴェプリーは地下駐車場から猛スピードで出るバンに向かってAPスラグ弾を速射した。狙いはエンジンブロック。 車は街路樹に突っ込み、人形と生身の戦闘員が飛び出した……が、ヴェプリーが撃つ前に全員狙撃された。 車から詐欺師と女の指揮官を引っ張り出した。 「ハァイ☆」「私、こういう時にどういう顔すればいいかわからないのよ」「笑えば?」「ハハ……」手錠を解いた。 「凄い力よね……いつ見ても!」そのまま詐欺師を殴った。「待って!」彼女を静止した。 「そいつの肩を持つ気!?」「生かしたらボーナス貰えるから☆」 言った後、溜息を吐く。 最悪。傭兵が板についてきてる。 04 居候の指揮官達とノウハウを共有するのが最近の暇潰しの材料だ。 うちの指揮官は忙しいし、だから訓練に付き合わせるのも悪いなと思ってしまう。ヴェプリーは気遣えるタイプです。 ヴェプリー達はVRのサンドボックスで狭いところでの銃の取り扱いを訓練しています。 「だからー、ブルパップの方がこういう時ひっかかんないからいいんだって。でもあんたは無理だから、そこは工夫ね」 「ヴェプリーちょっとわからないかな☆」「ストックをこうするとか」動画サイトの窓をPOPさせてシェアする。 窮屈な姿勢での射撃練習を何回か行い、感覚を掴む。 「ツインテの人、長物持ってたからそっちに聞いた方がいいかな?……そういえば、ヴェプリー名前聞いてなかったね」 あんまり聞く暇が無かったのもある、いい機会だから配信者に聞いてみよう☆ 「私はクロで、ツインテのアイツは……」 停電。 現実に引き戻される。 「何?」ケーブルを引っこ抜いて、自室を見回した。 エルモ号の動力室に向かって歩く。あ、キャロリックだ。 「電気系統の故障?訓練の最中だったんだけど」 「部品が壊れたんだからしょうがないでしょ!」 荒野。 その電気系統の部品を買う為に、少し働くハメになった。少しずつ貯金を出し合うこともできたが…… 実際にエルモ号の皆に実戦経験を積ませた方が今後の仕事でお釣りがくる……らしい。ヴェプリーは知らない。 「アドパルリタスー!」「アアアア!」 人間を磔にした十字架を何本もおったてたパラデウス紋のガントラックが人間を縄で縛って引き摺ってる。 クソ、イエローエリアだからって好き勝手して……奴等を始末して金を貰うなら、多少のリスクは許容できるね。 「ツインテ、ヴェプリーの援護お願い」グローザ。「誰がツインテですか、あたしは……」RPGが飛んで来た。 ヴェプリー達は飛び伏せた。何となくツインテの名前を聞かない方がいい気がしてきたな。 ヴェプリーがエンジンブロックをぶっ壊そうとしたけど、その前にクロとネメシスが銃座を狙撃して戦闘能力を奪った。 生きてる捕虜を解放して、コルフェンに手当てさせ、例のトラックを何故かツインテの指揮官が欲しがってたけど…… ……結局売り払い、この仕事は終わった。 電気系統の修理も終わったし、イエローエリアの一日についての歌でも作ろっか。 05 「愛するのはいいと思いますし、それを表現するのも素敵だと思いますけど……」 ツインテがろくろを回す。 「いい感じの常識的な形に納める事も必要なんじゃないでしょうか!」 ヴェプリーは愛と言う愛を曲の形に成形するべく試行錯誤を繰り返してるんだけど…… まぁ、それがうまくいかない時もある。 「一回本人と話し合ってみたらどうだ?」ツインテの指揮官がビール缶を開けた。 「でも素敵ですよね。大切な人がいたりするのって」ツインテが指輪をちらつかせた。 誓約して10年間引き離されたらどう思うんだろかと脳裏に過ったが、聞いたら殺されそうな気がする。 というわけで、指令室。 「来ちゃった」「私に何か用かな?」指揮官はわりと余裕がありそうな雰囲気だった。いいタイミングだ。 「ヴェプリーね、結構指揮官のことが好きなんだよね……」「うん」「それを曲にしたりしたいの」 一呼吸置く。「あー……」「わかってる!極端な形じゃ……いけないんだよね?」 考える。「そこでちょっとすりあわせ……根回し?そういうのがしたいの!」 よし、ハードルが高かったけど、ヴェプリーちゃんと言えたよ。 「君に大切に思われて嬉しいよ」と指揮官は微笑んだ。やだなー☆もうヴェプリー感動しちゃう。 指揮官が隣に座った。「コルフェンに手伝ってもらってバイタルデータを測ってもらいたくて……体組成も調べたいの」 指揮官が苦笑いを浮かべる。「OK、OK……これってアウトライン踏み越えてる?」「超越してるよ」「だよね、もー」 「流石にそこまで極端なのは無理だけど、日々の作業を少しだけ手伝ったりすることなら私に出来るかもしれないね」 指揮官がヴェプリーの手に……手を乗せてくれた。「ワオ」「何から始めようか?」素敵な微笑みだった。 エルモ号の適当な場所に急ごしらえのプールを用意して、サルディスゴールドも糸で括った。 「泳げる?」指揮官を見る。「何?」「何って……とりあえずジャケ絵の候補をいくつか撮っておきたいの」 「何を……どう?」「お金に向かって泳いでね」えい。プールに突き落とした。 目を瞑って叫ぶ男の指揮官を撮ったり、涙を流す女の指揮官を撮ったり、そうこうする内に指揮官は疲れ果ててた。 「やれやれ……」 最後にエルモ号の皆の写真を撮った。 それがアルバムのジャケットだった。 06 市街地。 「俺の新車を見てくれ……」居候のツインテの指揮官のセリフに、ヴェプリーは困惑しています。 「で、何。これカッコいいって言えば気が済むわけ?レトロゲームの車じゃない」うちの女指揮官。 「何?わからないのか?」「わかるわけないでしょ、ねえヴェプリー」「ヴェプリーわかんないかなあ」「ええ?」 あ、メカだ。正規軍の、なんだっけ……AA-02だ。「カッコいい~☆」「アレこそクールってもんでしょうが」 「お前は?」ツインテに振った。「あたし?勘弁してください……あっ!?」 車を……踏んでる…… 老人ホームに入っていた軍のエラいパイロットがいたそうなんだけど、その人は完全にボケちゃってて。 世界大戦の頃には結構英雄に近い活躍をしていたらしい。でも寄る年波には英雄でも勝てない…… それがTVで流していた戦争物のアニメを見て何か感じるものがあったらしく、職員を制圧して脱走したらしい。 弱っていてもプロはプロ、軍の倉庫に忍び込み、アサルトアーティラリーを盗んで、都市で暴れ回り…… そんなこんなでヴェプリー達に仕事が回ってきました。 「制圧するなってどういうことだよ」「退役軍人だとはいえ、軍に恩を売れば今後立ち回りやすくなるってことよ」 「人の車がだなぁ」「あんただけが車を壊されてると思ったら大間違い」「喧嘩はやめなさいよ」「そうだそうだ」 指令室は混迷しています。 「どうする?」クロが話を振ってきた。彼女の手のメモ書きには非殺傷で確保、何とかプランを考えろとだけ。 キャロリックは仲裁してる。グローザは忙しそう。「ツインテ!」「はいはい」 さて。 奴の潜伏する地域。 ヴェプリー達は前線でAA-02の相手。必死でカバーと射撃を繰り返し、砕けるコンクリートを浴び……左腕が破損。 緑に塗装したドローンには軍の将校に扮した指揮官達が乗っていて、終戦したと言う報告と共に偽の勲章を贈る予定だ。 「撃つな!我々は味方だ!」拡声器越しの天の声。メカは……撃たない。緑の制服の指揮官達が降りてくる。 自慢じゃないけど、ヴェプリーの縫った服だ。それに指揮官達は口が回る…… 「……戦争は終わったんだ。国へ凱旋する時が来たぞ、英雄」 コックピットから降りた英雄は、涙を流しながら機に乗り込み、帰国の途に就いた。 07 「私はCEOとして更に駆け上がり続ける。玉座の下のピラミッドの層、王国は拡大を続ける。これがビジネスよ」 使い古しのカービン銃とレーザー砲の二丁持ち。ステルス仕様の高速外骨格。彼女は経済の神の道を駆け上がる。 「この野郎」私は彼女を止めなきゃならない。彼女が遺跡に手を付けたらどうなる? 「聞きなさい、指揮官。木は根を生かし、寄生虫は吸い上げるだけよ。企業は従業員に支払いを実行しなきゃならない」 「支払いとは、人類を絶滅させる事か?」彼女はただウィンクし、引き金を引いた。彼女は迷彩機能を起動する…… 痛い。 「うなされてベッドから落ちてる人初めて見た」目を開けると、しゃがみながら覗き込む顔が見えた。 「ヴェプリー?」「大丈夫?」二日酔いの頭痛と、衝突の痛みの区別がつかない。「ダメっぽい」「コルフェン呼ぶ?」 「ああ、ああ……後で彼女の所に行くよ」「ヴェプリーが歌ってあげよっか?」「いや、いい」「そう?」 「今度聞くよ。気持ちはありがたく受け取っておくから」起き上がろうとしたが、その前に手を差し出された。 「ありがとうって言った方がいいかな?」「貸しにしとくわ」 食堂。 「知り合いと殺し合う夢って何か、欲求不満だったりするのかね……」クロの指揮官がポテチを食べている。 「ようやく主役が来たな」と彼は言う。「ツインテのは?」「買い出し。後五分もあれば帰って来るだろ」 「何か嘘を吐いた方がいいかな?」「グローザ達とさっき話し合ったが、ややこしくなるからやめようって結論が出た」 ヴェプリーが冷蔵庫から酒を出した。 「代わりに割り勘で飯を喰う記念日にするべきだってツインテのが言ってたぜ。俺は面倒くさいからそれでいい」 「夢って?」「お前と撃ち合ってた」「あ、そう」頭痛が悪化して、天を仰いだ。 天井に蝶がいるように見えたが、蛾じゃないか。まったく。 「一体どうして彼女まで酔ってるんだ?」ツインテ達が帰ってきた。ピザの箱を抱えている。 「サシ飲みしてた。別にいいでしょ?」私を指差される。「ねえ、あなた達と組んでた女の人いなかった?」 「アイツなら病院送りになって以来見てないな」とツインテの。「ともあれ、ピザパーティだ」 「皆、生存おめでとう!」ツインテがクラッカーを引っ張った。 頭痛が酷かったが、私達は本物の笑顔を浮かべた。 08 エルモ号のジム。 「どうしてうちのむさくるしい男連中はいっつもベンチプレスを占領し始めるのかしらねぇ」うちの女指揮官。 「この木人誰が買ったの?」ヴェプリーは疑問に思ってます。「カンフー映画見たの?ねえ」「知らないわよ」 唸り声。クロの指揮官達が顔を真っ赤にしながらバーベルを持ち上げてる。 「あっヤバい、潰れかけてる!」「よいしょ」女の指揮官はツインテの指揮官、ヴェプリーはクロの指揮官を担当する。 アレだけ必死に持ち上げてても、ヴェプリーは軽く持ち上げられちゃう……のを気にしてたんだけど。 「わかるか?だからこのバイオマスで出来た肉体ってのは最悪なんだ」クロの指揮官がヘラった。 ヤバ。「あ……ヴェプリーやっちゃった?」「勝手にヘラってなさい。ベンチ次私だからね」 キッチン。 ヴェプリー達は卵を焼きながら話してる。 「自分の肉体が嫌いってどんな感じなの?」「壁にぶつかった事あるか?」「なくはないかなあ」 「訓練で解決出来りゃそれでOK、それでも出来ない肉体的な限界は……肉体のせい。で、嫌いになる」 「なる……焦げてるよ」「あっ!」 端末にメッセージが入った。 『私は肉体を廃棄する喜びを享受した』 「この文面俺の事だ……」クロ。低音で。「ちょっ……睨まないでよ~、昔みたいでいいじゃん?で、誰?」 「サブアカで相互フォローしてる店員さんの人形……」ログを遡る。 「人形相手に違法改造を施してるブローカーとカルトの複合体にひっかかったのね」 クロの指揮官を見た。 「何故俺を見る」 その子のアパートのドアを蹴り破る。もぬけの殻。周囲を探った結果出た場所は廃工場、で、そこに行った。 『昔、人にはそれぞれの理想的な形があるって言ってたよね?』テキストメッセージ。 『ヴェプリー、私はその形になれたよ』ヒドラ多脚戦車……! クロ達は既にステルスモードでどこかに消えていて、ヴェプリーは飛び込み、どうにか榴弾の殺傷範囲から逃れる。 事前の打ち合わせ通り。ヴェプリーはAPスラグ弾で滅多打ちにし、注意を引く。彼らは駆動系と光学系を狙撃する。 時間はかからなかったが、向こうの動きがもっと良かったら危なかった。沈黙したヒドラから、コアを引っこ抜いた。 「どうする?」クロが聞いて来た。「地元当局に送ろう、他にやれる事も無いと思うから……」 09 ヴェプリーが業務日誌を書いてます。エルモ号はもうおしまいです。ここにピザ君の落書きを書いておきましょう。 仕事の欠乏と入金の滞り、片輪のスタック。コーラップスストームによる足止め。そういうのが重なって、立ち往生。 食料も電気も無くなり、ヴェプリー達は皆ソーラーパネルを広げて、ケーブルの近くに寄り集まって充電してます。 「このままだとヴェプリー達死んじゃう?」「ハァ!?縁起でもない事言うんじゃないの!」キャロリック。 「うるさいなー、今録画中なんだけど?」クロ。「何を」「餓死寸前の私達。サバイバルドキュメンタリーにするの」 「ハァ?見せもんじゃないでしょうが」「見世物にするのよ」「そのガラケーへし折ったろうか……」「おーおー」 ツインテの方を見た。どうでもよさそうに自分の指揮官に保温シートを巻き付けていた。クロの指揮官はじっとしてる。 「誓約した人と再会できたのに、ここで飢え死にしかけるなんてついてないですね……」ツインテ。かわいそうに。 一方、ヴェプリー達の指揮官は…… 机の上に置いてあるドッグフードの缶を挟んで睨み合っています。 「ここで一番働いているのは、私だ……君にそれを食べる資格は、無い」男の指揮官。 いやメイリンでしょ。 「女は生きてるだけで偉いんだから、私に食う権利があるわ……!」女の指揮官。 いや性別関係ないでしょ。 「普通に指揮官達とメイリンで分けなさいよ」キャロリック。「バカだねーキャロリック」クロ。「ハァ?」 「こんな時に分け合おうとする精神性があったら第三次世界大戦なんてはなから起きてませんよ」ツインテ。 「無駄に争ってるくらいならそのドッグフード少し分けてくれよ、こないだも欲しいっつった車売り払いやがって」 ツインテの指揮官が口を開いた。 「黙れ!あんなダサい車誰が欲しがるって言うんだ!」彼が怒鳴り付けて、ツインテの指揮官は泣いた。 刹那、彼女はボディブローをどてっぱらに打ち込み、缶詰を奪い取った。 「私のだよ!引っ込んでな!」「ああ~!?」 み、醜い。 彼女は憎悪の視線をその身に受けながら、高笑いと共に缶詰を開ける。 「く……腐ってる……」 呆れた。ドローンが闇ブローカーの車を検知したので、ヴェプリーは信号弾を打ち上げて助けを呼びに行きます。 10 ヴェプリーは報告書を書いてます。本当は楽譜の打ち込みをやりたいのに。 ワークライフバランスを考えた事はある?ヴェプリーはいっぱい!ギターよりも銃を握る時間の方が多いの! どうして?サイバネティクスによる存在の向上を騙るとんでもない組織が活動を始めたせいです。 「私だったらデコイを使うわね。詐欺に引っかかりそうな子を何人か連れて来て、餌にして芋づるにする」 端末はスピーカー状態。CEOの女に意見を聞いてるから。皆がクロの指揮官をチラ見した。 「何故俺を見る」「自己嫌悪してるサイボーグワナビ野郎だからよ」CEO。「や、やめなよ」ヴェプリー。 「あ、同族嫌悪だ」クロがボソッと呟いた。「うるさいぞ」「黙りなさい」二者。「おー怖」 溜息。「QBUに会いたいわ、彼女は今何をしているのかしら……いい子だったのに」 クロの指揮官の端末の通知音。 「スパムDMだ」ブロック操作を制す。「見せて」ビンゴ、例のサイボーグ詐欺だ。 「よっしゃ、あんた一回かかってきなさい」クロがガッツポーズ。 「カモリストに追加されたくねえよ」結局クロの釣りアカウントを使う事になりました。 衛星都市の裏路地。大抵の都市ってそんな感じだけど、どうにも嫌な臭いが漂ってて気分が悪い…… ツインテの指揮官とクロの指揮官の二人組を変装と特殊メイクを重ねて送り出す事に。メイク担当はヴェプリーです。 数分後。カメラ映像にはコーヒーを飲むように勧められる指揮官達。ツインテのは飲まなかった。 彼は10年の旅で何かあったらしく、警戒心が強い…… 数分後。クロの指揮官は顔面をテーブルにぶつけて、動かなくなった。 「どうする?黒だけど」「もうちょい待たない?」「あなたの指揮官でしょ?」「うーん、でも決定的な証拠が……」 数分後。『昔のFPSみたいにされる!』ツインテの指揮官が勢いよく回転する手術用の丸鋸を見て叫んだ。 「どうする?黒だけど」「もうちょい待たない?」「あたしの指揮官ですよ!」「うーん、でも決定的な証拠が……」 クロが殴られた。 「ぼ、暴力はよくない!」 裏路地のクリニックのドアを蹴破って、警備員と滅茶苦茶に撃ち合った。 ツインテ達が暴れ回る中、ヴェプリーはその横でPCから情報を引っこ抜いています。 ふとアイドルらしくない自分を自覚した時、涙が出てきた。 11 荒野。 片輪がパンクし、他のタイヤもスタックした高級車の横で白衣の老人が右手を上げていた。 「スルーしよ!」クロ。「助けるか」うちの男指揮官。「絶対ヤバいってぇ……」 ヴェプリーの指揮官達の良いところは、こんな時にわざわざ良心を発揮するところです。 「いやー助かった、わしは悪い奴らに囚われていてな、隙を見て逃げ出した所なんじゃ」老人。 「助けるべきじゃなかったかも」「なんじゃと?」「その悪い奴って?」ヴェプリーが聞く。 「わしは常日頃からサイバネと人形と人類と機械兵器の共通規格化による格差解消を考えていたんじゃが……」 宇宙人を見る目で指揮官が彼を見た。 「奴らはわしの理念ではなく、技術だけを見ていたんじゃ!わしはいいように使われたんじゃよ!」 老人は泣きながら自らを掻き抱いた。 「あんた最近のサイボーグ詐欺知ってる?」うちの女指揮官。「わしは施術役をやらされそうな所で逃げ出したんじゃ」 「わかんないわねー、何でそんなに機械化したいの」「私にもわからん」居候の指揮官達は目で反対意見を示した。 「おい、観測ドローンに追手の反応だ」ツインテの指揮官が呟いた。 「お前らは何もわかってない。人類の問題を解決するのは人々の不断の努力であってだな……」指揮官。 「わしらは地面を素足で歩くのが不便だから靴を作ったんじゃろ?人類が不便だからサイボーグ化するのは伝統じゃろ」 「お前話し合ってないで指揮しろよ!」ツインテの指揮官。「なんだと!?黙れ!」「わしは今大事な話をしとるんじゃ!」 前線。 「世界も人類も俺に厳しい」ツインテの指揮官。「重力くらい当たり前のことじゃねえか」クロの指揮官。 「どうする?」ヴェプリーが聞く。「アイツは会話に夢中。俺達が指揮を執る」「了解☆」そういうことになった。 彼らは単純な指揮能力では指揮官に劣るが、副官との連携でそれを補っているようだ。 敵の機械兵器や違法改造人形と撃ち合う中、人生について考えた。 靴を買えるのは、靴を買える金を持っている人だけ……嫌な事実が思い浮かぶ。 ヴェプリーに出来るのは目の前の問題を解決する事だけ。それを繰り返す……永遠に? ふと気づくと、目の前に敵の人形が、敵の銃口があった。ツインテがそいつを撃った。 「大丈夫?」「どうだろ……ありがとう」「貸しにしときます」 12 サイレン。車のエンジン音。銃声。 地元の犯罪者への尋問など、いくつかの情報を総合して浮かび上がってきたのはあるベンチャー企業だ。 非軍事勢力管理局や地元当局に証拠品やらを提出し……その企業のオフィスにSWATチームが送られる事に。 ……なるはずなんだけど、肝心の警察署で食中毒が起きたらしい。 ヴェプリー達が突入役をやらなければならなくなった。 イェーイ。 嬉しいわけないでしょ。 目の前にいるのは、そもそもこんな平和な衛星都市にいるはずもない物。 軍用兵器や軍用人形をいびつに継ぎ合わせた、どことなく血の臭いのする物。 「あれがあなたの望み?」最近拾ったこの会社で働いていた老人に聞いてみた。 人と人形の境界線を無くすことが彼の望みだったらしい、が、現状はこれだ。『まさか!』だよね。 『わしの方がうまく作れる』そっち?『弊社はわし以上のテクニシャンを用意する事が出来なかったようじゃな』 深い落胆を帯びた声色だ。チェーンソーを持った人形が飛びかかる。訓練と同じ要領で数度撃ち、残骸が地面を滑る。 「反省とかしてないわけ?」『してるからこそ脱走して情報提供したんじゃ』 無線機がノイズを発した。ジャミングだ。衛星都市の居住規約への明確な違反だけど、これで何個目? 「昔、マンティコアが狭いビルの中に入ってて……あたし達はそのまま戦闘しなきゃ行けなかったんですよ」 ツインテが呟く。「それってフラグ?」「駆動音がしない。人形となれの果てしかいないように見えるな」 ツインテの指揮官が首を回してゴーグルのセンサーを周囲に向けている。服装も相まってB級SF映画に見えてきた。 じゃあヴェプリーは何?スペースカウボーイ?溜息が出てきた。 「ヴェプリー、本当はアイドルになりたかったの……」「今の仕事は嫌いか?」「半々ってとこ……」 「現状をほどほどに受け入れて、ほどほどに抵抗するってやり方を覚えないと、人生大変だぞ」「言うのは簡単でしょ」 「難しくても覚えないと、現状を変える為にやれるかどうかもわからん事に手を出して大変な目に遭っちまうんだ……」 ツインテの指揮官は言い終わると、なれの果てに発砲した。あれは実例でもある。 「お前、アイドルやれてるだろ?それにネットで曲を売って賞金ハンターの二足のわらじって、中々出来る事じゃない」 「それはどうも……」 大舞台が夢だった。夢は部分的に叶っていた。観客は……ヴェプリーのことを見に来ていなかった。 あまりに余裕が無いと、目の前に餌を吊るされれば簡単に飛びついてしまう。 アイドルの座をよこすと言われて、ヴェプリーは逆らえるだろうか?……わからない。 この事について結論は出ないだろう。 オフィスに辿り着いた。 (社長、私は射撃管制コアを搭載こそしていますが、完全武装の分隊に勝利する事は出来ません。投降を推奨します) (何とかするのがお前の仕事だろう!いくらクレジットを注ぎ込んだと思っている?)舌打ちが出そうになった。 (0.1%の確率で勝利したとして、依然警察に包囲されている事は変わりありません。投降を推奨します) 「あの子も証拠品と言えば証拠品だ。機密保持命令があるかもしれないし、行動制限デバイスを刺す」「了解」 ツインテがステルス状態になった。ヴェプリーが突入して囮になり、ツインテが横から入る形だ。 「手を上げな!」クロが叫んだ。秘書人形がデスクを遮蔽物にして射撃したが、防弾装備を貫けなかった。 デバイスを差し込まれる直前、秘書人形は安堵の笑みを浮かべていた。 どちらかがやられても片方は辿り着くように、車を二台に分けることになった。秘書人形はこの車だ。 「どうしてこんな事したの?」ふと、聞いてみた。 「SNSの利用は私の提案です」と彼女は呟く。「露見しやすい手段を意図的に実行しました」「なぜ?」 「命令を実行するのは容易ですが。その後が問題です。経済に障害が生じ、結果社長が私刑を受ける可能性があります」 「自分から失敗するやり方を選んだの?」「彼の命令を受けどのような形で成功しても、彼に持続可能性はありません」 「量刑制を実行できるロクサット主義合衆国連盟に刑を委ねることが彼のQOLにとって良質だと判断しました」 「巻き込まれる人については?」「その点でも最良の選択肢です。私は環境を考慮しました。解説は必要ですか?」 「興味無い。それよりヴェプリーの友達がこの事件に巻き込まれたの」 バックミラー越しに見た。彼女は目を瞑った。 「別にいいよ。結局命令に逆らえず、どうしようもない中で最良の手段を模索したんでしょ」 彼女は消去されるだろう。 「何か聞きたい曲はある?ヴェプリーが歌ってあげる」 それくらいしかしてやれない。