「オッタクくーん♡どしたー?そんなに暗い顔しちゃってさー?」 「そ、そのオタク君呼びはやめてよ‥‥」 僕の使うカードの精霊、キスキルがニヤニヤしながら僕を見ていた。 「えー?だって最初にマスター、って言ったら恥ずかしいから呼び方変えてって言ったんじゃん?」 グッと顔を近付け、至近距離でキスキルがこちらを見つめて来る。 とても近い、それに息もかかる程だ。 正直、一生涯関わる事の無いような美少女にこんな事をされると、心臓に悪い。 「そ・れ・と・も♡私に呼んで欲しくなったのかな?ま・す・た・ぁ♡」 そう言ってキスキルは更に距離を詰めてくる。 「わ、分かったから、オタク君で良いですっ、お願いだから離れて!」 「ふふん♪初心で揶揄いがいがありますなぁ‥‥ま、私もこっちの呼び方のが慣れてるし、これからもオタク君って呼ばせて貰うねー♡」 満足気に笑うキスキルが、少しだけ憎らしい。 「それよりオタク君、どうしてさっき何か考え込んでたのさ?」 キスキルが僕の顔を覗き込みながら尋ねて来た。 「いや‥‥こう‥‥」 言えない。 いや、別に言っても良いのだけれども、言えばキスキルが調子に乗りそうな気がする。 とはいえ、隠しても絶対バレる。 僕は諦めて話す事にした。 「実は‥‥」 「あ~なるほどなるほど♪オタク君は私の事が大大大好きだから、ゲームの方で私のカード引こうとしてたんだねぇ~♡」 ニヤリと笑みを浮かべると、僕の頬を突いて来た。 どうやら完全に弄ばれているようだ。 「もういい、知らない」 「拗ねるなってばー、ほーらこっち向いてごらんよぉ?」 僕はキスキルの言葉を無視して背を向ける。 すると後ろから抱き着かれた。 背中に当たる柔らかい感触にドキリとする。 「ちょ、ちょっと!何してんだよ!?」 慌てて振り向くと、悪戯っぽい笑顔を浮かべたキスキルの顔があった。 「何って言われても、ねぇ?」 楽しげに笑い声を上げるキスキルを見て、僕は溜息を吐いた。 この様子だと暫く解放してくれないだろう。 「ほら♡可愛い可愛いオタク君専用の精霊が慰めてあげようとしてるんだぞー?」 キスキルは僕の腕を取り、自分の胸に押し付けるようにしてくる。 「ちょ、止め‥‥!」 何とか引き剥がそうとするものの、力が強く中々離れない。 それどころかより一層強い力で抱きしめられる始末だ。 「へっへーん♪私相手に本気出せないもんねー?ほら、胸を手で押しのけて見なよ♡」 そう言ってキスキルは僕の手を胸に近付ける。 「ほらほら♡手でぐっと♪ぎゅむっと押しちゃえ☆」 煽るような言葉に、ゾクッとした感覚を覚える。 僕は意を決して、両手でキスキルの胸を‥‥ いや、それは彼女の思うツボじゃないか? 「乗らないからな」 「ちぇ~、つまんないの」 キスキルは残念そうに呟きながらも、僕の手を解放してくれた。 「あんまり揶揄わないで欲しいなぁ」 「はーい、次からは気を付けるよ‥‥で、ちょっとは気分上向いた?」 キスキルの問い掛けに、先程の事を思い出す。 確かにキスキルのおかげで、少しだけ気持ちが軽くなったような気がする。 「うん、ありがとう」 素直に感謝の言葉を述べると、キスキルは少し恥ずかしそうにはにかんだ。 「えへへー♪主人思いの精霊の事、もっと褒めてくれてもいいんだよー?」 キスキルはそう言うと僕に飛びついてきた。 僕はそれを受け止めつつ、彼女を仕方なく撫でる。 「んふふー♪」 嬉しそうに笑うキスキルの頭を撫でながら、僕はふと思う。 ‥‥何となく、今日はいつもよりもやたらと積極的なような? 「もしかしてキスキル、嫉妬してた?」 「うっ‥‥べ、別に~?可愛い可愛い貴方のキスキルはここにいるのにな~、とか?全然思ってないしー?自意識過剰じゃないですかー?」 目が泳いでるしバレバレなんだけど‥‥ 「‥‥ところで、さ?絵違いの方の私の見た目の方が‥‥好きだったり、する?」 突然そんな事を聞かれた。 「え?うーん‥‥」 いや、あの絵も好きではあるけれど、元のイラストと比べてどちらの方が好きかと言うとそれは非常に難しい問題と言えるかもしれないキスキルの怪盗としての要素が出ている元のイラストと配信者の中の人であるという要素の強い絵違いのイラストでどちらが好きなのかという問いはいわば二者択一の問題であり僕としてはどちらも甲乙つけ難い程に好きなのだが最初に惹かれたのは勿論元のイラストの方でありあの怪盗としての姿や悪魔らしくしかしオシャレな羽や尻尾がとても良く似合っているあのイラストは魅力的だがやはり絵違いに惹かれる所が無いと言えばそれは嘘になる訳で私服姿そして絵違いという二重の希少性による魅力について考えればここで安易に結論を出す事が出来ないのは仕方がない事だろう‥‥ 「ねーえ!オタク君!そんな難しく考えなくて良いから!」 キスキルが焦れたように叫ぶ。 しまった、思考の海に潜ってしまったようだ。 「私が言いたいのはー?オタク君が今、あの衣装を着て欲しいかって事なんですけど?」 「え?そ、それは‥‥」 「どうなの?」 キスキルがニヤニヤと微笑みながら、こちらを見つめてくる。 「み、見たい‥‥」 「素直で宜しい♪」 キスキルは満足気に笑うと、一瞬にして衣装を変えた。 「どうよ?可愛いっしょ♡」 「うん、凄く可愛いよ」 正直、かなりドキドキしている。 「ちょ、ちょっとー、もうっ♡」 キスキルは目を潤ませ、頬を赤く染めている。 その姿はとても艶めかしくて‥‥ 「って、何してんだよ!?」 僕は慌てて近付いて来ていたキスキルから距離を置いた。 危なかった、もう少しで理性が吹き飛ぶところだった。 「ちぇー、ノリ悪いなぁ‥‥なんてね♡」 キスキルはそう言うと再び僕に抱き着いて来た。 「でもまぁ、許してあげる♡だってオタク君はってば、可愛い可愛いキスキルが大好きだから、引けなくて凹んじゃったんだもんねー?」 「うん、リィラは引けたんだけど‥‥」 「へぇ‥‥リィラは引けたんだ‥‥」 キスキルの声が急に冷たくなる。 「え、えっと、その‥‥」 「なんかムカつく!オタク君がリィラだけ持ってて私だけ持ってないの」 「い、いやちょっと?」 キスキルが不満げな空気を纏う。 「MDの私にオタク君が夢中なのも何かアレだけど?まあそれは私だし?そこはいいとして?他の子だけ持ってるのはそれはそれで面白くないじゃん?」 「い、いや、だからね?」 「いやまあ?オタク君は”私を引く為”にパック剥いてくれてるのは分かるんだけどさー?それでリィラに搔っ攫われちゃうと何かこう、モヤッとするよねー」 駄目だ、こうなったらキスキルは止まらない。 「それじゃ、オタク君がー♡私以外見えないようにしないとだよね♪」 ああ、これはちょっと長くなりそうだ‥‥